運転中の風景

いきあたりばったり放浪の旅、心得の条。
一、車で移動するが、有料道路は利用するべからず。
一、最初の目的地以外、一切のルートを前もって定めるべからず。
一、冒険すべし。一般の旅人が行かない場所にそれはある。
一、高価な宿は利用するべからず。車での野宿を基本とすべし。
一、風呂は、温泉の外湯、共同浴場を積極的に利用すべし。



98/9/21(日) 出発前日

19:00
天気予報をチェック。
台風8号と7号が日本に接近している。 これはしょっぱなから波瀾ぶくみの展開だ。
まあ、天気予報はだいたい外れるもんだ。何とかなるでしょう。
21:00
車での野宿に備えて、布団などお泊りグッズを積み込んで寝てみる。
せまい。しかも床が傾いている。
つまり後部座席を前に倒してできたスペースに寝ようとしたのだが、なにせ軽自動車のミニカトッポ・タウンビー(瀬戸朝香がTVで宣伝しているやつの前のバージョンである。 出目金みたいでなかなかキュート)である。後部座席のシートを前に倒しても、 フルフラットにはならない。これはまだ布団とクッションのしき方でカバーできるとして、 足をまっすぐにできないのは致命的である。

宿を使わないとなると、問題は電気である。取材用のデジタルカメラ、ノートパソコン、 PHS、携帯電話と、泊まった部屋のコンセントで一晩充電という手段がとれない。 電気は車で自給自足しなければならない。
そこで自動車のバッテリーから家庭用のAC100ボルトに変換するインバータを購入する。
これにカーナビが常時ついているワケで、ひょっとするとバッテリーあがりで身動き取れない 可能性もある。一応、バッテリーチェッカをつないでおく。車内から簡単に電圧がチェックできる やつである。

98/9/21(月) 第1日 最初の目的地: 富士山

8:00
カーナビの行き先を富士山に設定して、自宅を出発。曇りである。
7:00出発のはずが、いきなり寝過ごしてしまった。どうしても、あるていど都内を通って行くルート になるので、朝の渋滞に巻き込まれることになる。
カーナビの渋滞情報を駆使して少しでもスピードアップ。
9:30
高井戸で最初のハプニング。立体交差だろうと思って地下に突っ込んでいったら、どうも薄暗い。 どうもゴミ処理場への連絡通路のようだ。Uターン。

 

11:10
オートバックス小金井店にて最初の休憩。 要するに貧乏旅行なので、ファミレスでお茶するのはポリシーに反するのである。
12:15
高尾駅前。恐れていた雨が降ってきた。この先、だんだん町並みが減ってきて山沿いのルートになる。
13:05
山梨県に入ったところで昼食。コンビニの幕の内弁当である。
大雨が降っているので、コンビニの前で車に乗ったまま食事。 一度弁当買いにきた客が、しばらくしてまた来て、トイレを使って帰るのだから、店員にとっては さぞ奇異に映ったことだろう。
前回札幌に行ってカニやらウニやら食って豊かな食生活を送ったのとえらい違いだ。
14:30
都留を過ぎて二度目のハプニング。助手席のパワーウインドウが半開きのまま、 閉まらなくなってしまった。
雨が浸入しておかしくなったのか?手で強引に引き上げようとしたが閉まるわけがない。 窓が開いたままでは、車を離れている間にイタズラされる恐れが大である。 カーナビで調べてもオートバックスもイエローハットも近くになさそうである。あとは 三菱自動車のディーラーか修理工場を探すしかない。こんな閑散としたエリアにあるのだろうか。
最寄りのガソリンスタンドで聞いてみる。
「河口湖の近くに一軒あるよ」
ラッキー。
15:00
三菱自動車の工場に到着。雨脚は強くなるばかりである。
ちょっと太めの整備員はタウンビーに乗ってみると、チョイチョイとパワーウインドウの スイッチをいじった。
おや? 動くぞ!?

「子供さんが間違って開けないように、チャイルドロック かけたままにしてたみたいですね」

しっしまった。私としたことが、とんだ勘違いである。やっぱり先を急いで焦ってるのかな。 いやいや、整備員君ご苦労。ちなみに私は結婚しているが子供はいないぞ。
頭をかいて退散。

15:15
富士急ハイランドの裏に着いた。いわゆる富士山のふもとというやつに着いた。 問題は富士山で何をするかだ
また最寄りのコンビニで資料収集。「マップルマガジン 温泉&やど 関東周辺」(昭文社)をゲット。 この本の良いところは、宿泊しないで入れる「外湯」 についても詳しく書いてあることだ。
そこで私は考えた。

外湯めぐりと冒険の旅ってのはどうだろう。 昼間は人のあまり行かなさそうなチャレンジングな場所をめざして、 夕方は外湯につかって疲れを癒して、車の中で寝る。これだな。

16:00
もう夕方、とりあえず冒険しておかなくちゃ。目指したのは富岳風穴 である。地元の人によると鍾乳洞か何かあるらしい。 富士山が雨で拝めない代わりに、大自然の不思議に触れるってのもいいかもしれない。
チケット売場と自然歩道入口16:40
富岳風穴到着。
入口まで行ったみたが、なんと入場できるのは17:00までのようである。 たった20分しかないのと、あまりにも簡素なチケット売場に、これは入っても大したことは 無いのではと疑う私。

ふと見ると、チケット売場の左袖に「青木ケ原自然歩道」なる看板が立っている。 遊歩道かな。まぁ雨の日に森林浴ってのもオツかもしれない。
大きな左向きの矢印に、誘われるように道に入っていく。

17:00
遊歩道を進んでいる。 道の両側に木がうっそうと生い茂っている他は、これといって特徴のない道である。 と思うと、看板が二つ立っていた。 読んだ私は、自分の目を疑った。
この写真だけ、どういうわけか青っぽい色に映っている。

一つは、この自然歩道の周囲がいわゆる富士の樹海であることを説明してあった。樹海の説明と警告板
もう一つは「命は親からいただいた大切なもの...」という 看板であった。
樹海というところは、足を踏み入れたら最後二度と出られないと言われている。

しかし足元の道は広く、あるていど平らに整備されており、とても迷いそうには見えない。 気にしないで先に進む。
17:05
私はある場所に目をとめた。 真面目に資料にされては不本意なので省略するが、きっと、迷う人はここで迷うのだろうと思った。
まがりなりにも今回の旅の目的は一つは冒険である。分け入ってみる。
先ほどの遊歩道とは打ってかわって、ケモノ道のようである。進めば進むほど路面の状態は悪くなる。

tree.obstruct.jpg (12847 バイト) string.and.umbrella.jpg (15605 バイト)
正面の進行方向が枝で寸断されている。
写真左下からヒモが斜めに伸びている。
写真右下から左上に向かってケモノ道。途中で分岐して一本右斜め上に。

行く手を木にさえぎられる。向こう側に行こうとして足元をみた私は、 先ほどから道と平行に(ひも)が引いてあるのに気がついた。ロープというより、荷づくり用の簡易な紐にみえる。何のために?
木をどけて、先にすすむ。

紐のそばにカサの骨のようなものも落ちている。そして向こう側に、 道沿いの紐と直角に森の中へ分け入っていく。その先はどうなっているのか分からない。

意を決して...おいおいちょっと待てよ。
戻れなくなったらどうするんだ?
思わず携帯電話をみる。アンテナ一本...かろうじて圏外ではないようだ。時報にもつながる。
紐があるから、方角を見失うことも無いだろう。

意を決して、右に折れていく。
もはや頼りになるのはヒモだけ。地面はぬかるんでおり、いたる所岩肌が顔を出していたり、枯れた小枝が落ちて滑りやすくなっている。
50歩ほど進んで後ろを振り返ると、とても道があるように見えない。白い線がかろうじて、道の存在を示している。
紐に沿って進むと、他から伸びてきた紐と交差しているところを何回かみた。ははあ。
きっとこの紐は樹海のなかに碁盤の目に引かれており、迷い込んだ者の道しるべになるのはもちろん、捜索に入る際に、どのエリアを捜索したかしないかという座標になるのだろう。

一升瓶とお猪口、弁当のがら17: ??
あたりはますます薄暗くなってきた。日没が近い。地面には弁当の食いカスのようなものも 時々落ちており、最近人が出入りしたのが分かる。そんなゴミも見慣れたころ、ぎょっとした 立ち止まる。
一升瓶と、お猪口がある。
遭難者の冥福を祈って一杯やったのか。
はたまた...この世に別れを告げるために一杯飲んで、奥へ進んでいったのか。

一升瓶をまたいで (他に歩けそうな足場は無いのである)   さらに進むのは相当に気が引けたが、もう少し行ってみることに。

string.and.mark.jpg (13991 バイト)
斜めに倒れている幹に白い目印が。
一応行き止まり
この先で命を落とした人もいるのだろう
17: ??
木の幹に大きく書かれたしるしが見え、その向こうに紐が左右に伸び、またもや通せんぼをしている。通せんぼの所まで行ってみると、その先は高さ1メートルほどの崖になっていた。
そして進行方向ぞいに伸びてきた、命綱とも言える一本はどこにも結ばれず、その場で投げやりに丸めて捨てられていた。

潮時だな、と思った瞬間。
ズルっと足元がすべって転倒した。
とっさに手をついて転落は防いだが、手に切り傷ができ、親指と爪のあいだに泥が入った。
これ以上は止めておけと、ささやきが聞こえる。 急に弱気になってきた私は、進むのを断念して引き返すことにした。
17:40
チケット売場まで戻ってきた。重圧感から解放されてほっとする。 特に右肩が重かったりということもないようだ。
時計をみると、実は一時間もさまよっていなかった事が分かる。

色々な思いがよぎった。

樹海で亡くなられた方の冥福をお祈りします。
そして、これを読んだ方がおかしな気を起こして足を踏み込みませんように。

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