あの Web ブラウジングと 3D MMORPG をくっつけたようなセガの internet Adventure [iA] がサービス休止するようです。一見斬新に見えたコンセプトの何がそんなに問題だったのでしょうか。Web ブラウジングの形態や、時代遅れのチャット、といった切り口から考えてみます。
セガ internet Adventure [iA] は、2008年3月に CBT (クローズド ベータテスト) を開始したサービスで、3D MMORPG のようなバーチャルワールド (メタバース) を提供するものです。
MMORPG でいうところのエリア / マップ 1つ1つが、現実にユーザーが Web ブラウズしている URL と 1:1 にリンクしているのが新しい点であり、MMORPG との差分にあたる、目新しいコンセプトとしてはそれだけでした。
最初に CBT に参加して以降も、何回か iA からのお知らせメールは届いていて、テイスト的には嫌いではないのでちらちらとメールの内容を流し読みしてはいて、休止と言われても最初はメンテで数時間落とすとかじゃないの? と思っていたのですが、
〔iA〕は、“既存のWebサイトと3D空間の融合”という今までにないシステムにより、すべてのWebサイトに3Dコミュニティを提供することを目指して様々なサービスを行ってまいりました。しかしながら皆様にご満足していただけるコミュニティの創造にまでは至らず、熟考を重ねました結果、このたびサービスを休止させていただく判断をいたしました。
わずか 1年2ヶ月で終了ですか。Amazon カードより短かったですね。
CBT 期間中にプレイしたときにコンセプト上の問題点として、
- 競争原理が働かない
- シナリオがない
- URL に依存しすぎで使いにくい
の 3点を挙げましたが、これの延長でもう少し書いてみたいと思います。
発想としては普通に思えたが…
おそらく最初にコンセプトとしてあったのは、
「2ch のようなコミュニケーションの場を、メタバースの仮想空間に実現できないか」
といったイメージだと思います。読む人によって、2ch / 痛いニュース / 電子掲示板 / ベースノートしっくりくる表現で考えてもらえればよいと思いますが、特定の話題、Web 上の記事についての板 (スレッド) が立てられると、そこに不特定多数の人が集まってきて思い思いのコメントを書いていく。それを 3D 仮想空間でやってみたらというのが iA の着想なのでしょう。
ゲーマーにとって没入できない仕様
発想としては確かに面白い。しかし、「これネトゲ?」と期待してやってきたユーザーにとっては、あまりにもゲームとしては幼稚です。レベル上げの単純作業に没入して、人より強力なアバターに育てたい属性のユーザーにとっても、あまりインセンティブがありません。
潜在ユーザー数を増やすためにポリゴン数を削って単純化したり、やむを得ず仕様を意図的に制限した結果が、二兎を追う者は一兎をも得ずの結果になってしまった気がします。
何より、3D 仮想空間に没入したくても、それとリンクしている Web ページの持っているそれぞれの個性が、せっかくユーザーが没入しかかったバーチャルワールドの雰囲気や夢、といったものから「現実」に引き戻してしまい、Web サイトの方に集中しようとすれば、iA という別の世界が目障りになり、と食い合わせとしては最悪だと思います。
ネット上のコミュニケーションはもはや「スター型」ではない
iA では、1URL = 1アイランドが基本です。たまたまある記事を読んでいるとき、そこに居合わせたユーザー達がせっかくチャットで話し始めても、リンク先を見ようとした瞬間にテレポートして消え失せ、コミュニケーションの輪から強制的に外されます。
さすがに、それを防ぐために色々な仕掛けがあって、例えばミニブラウザを使用して、同一アイランド内に参考サイトのページをサブウィンドウのように開いて、「飛ばされずに」参照することができます。また連動切り替え機能によって、URL との連動を一時的に切ることもできます。
しかし、Web ブラウズしている人間の思考は、決してフォルダツリーのように元スレを中心として、関連スレがいくつかあるといった単純な「スター型」配線ではなくなってきています。
複雑化する混沌とした Web ブラウズは「三次元」で表せない
Internet Explorer (IE), FireFox, Google Chrome といった Web ブラウザが標準的にタブブラウズをサポートするようになり、同時に複数のタブを開いて、複数の Web ページを開きっぱなしにして行ったり来たりするのが当たり前になっています。
「タブ中毒」な人は、自分のタブ一覧を眺めてみると分かると思いますが、色々ページを渡り歩いたあげく、一番先頭と一番末尾のタブは、全然まったく関係のない Web サイトだったりすることがよくあるはずです 🙂 もはや、主なテーマとサブテーマといった単純な親子関係や、類似スレといったタテヨコの関係を、単純に 3D 空間に実装したのでは、しっくり来ないはずなのです。
可視化しようとすると、スパゲッティボウルのような収拾のつかないリレーショナルデータベースのようになってしまい、ゲーム感覚で遊べるものではなくなる気がします。
チャットが過去のものになり時流に合わない
別の例。140文字のつぶやきブログサービス “Twitter” の伸びがよく話題になっています。
Twitter にしても「ゆるい」コミュニケーション、ちょっといいなと思った人をフォローはするけれど、意味的にはブックマーク + α程度のものです。自分は「いま何してる?」に答えて独り言を言っているだけで、それはフォローしている相手は確実に見ることはできますが、返事はしてもしなくても構いません。
チャットや電話のように、オンラインであることを「強制」するメディアと対極をなすものです。そんな時代に、iA は 3D アイランドでチャットです。同じアイランドにいれば発言を聞くことはできますが、もともと Web 1ページあたりの滞留時間はそんなに長くありません。Web コンテンツの方を読んでしまうまでに発言が届かなければ、もう次のページ = アイランドにジャンプされてしまい、コミュニケーションは成立しません。
ゲームメーカーらしい別の夢を見せてほしい
コンセプトとタイミングを少しずつ外してしまった internet Adventure [iA] ですが、CBT 開始時に、確かに何かが始まりそうなワクテカ感があったのは確かです。このコンセプトではもう無理だと思いますが、景気がもう少し安定してきたら、また違う形でゲームメーカーらしい夢を見せてほしいと思います。
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