TOHO シネマズ新宿で、新海誠の映画「君の名は。」を観てきたので、夏休みの最後に感想など。
妙に古い作品が出てくるけど、まあ理由を聞いちゃいけないんだよ。

ご注意: 本編の核心はズバリ書いていませんが、やんわり書かざるを得ない部分もあるので、先入観を入れたくない人は映画を先にどうぞ。 🙂

CM に釣られて観に行きました

CM ではさんざん宣伝されているので、RADWIMPS の主題歌をバックに「あの男 / 女はー!」のセリフがすっかり刷り込まれている人もいると思います。

仁礼家ではポケモンgo人気が沈静化したあと、「シン・ゴジラ」は QA チームを伴って IMAX シアターに観に行っていて「そうだ、映画館に行こう」ブームがにわかに到来しています。

「君の名は。」も QA エンジニアを若干 1名連れて行けと言われて、「いやいや、この作品は多分一人でひたるはず」と単独行動で行ってきました。

「ほしのこえ」から期待していたもの

新海誠監督の作品は、2002年に「ほしのこえ」を観てインパクトがあったのを覚えています。

監督から美術、編集まで一人で作り上げたというキャッチーさでまず最初に釣られるわけですが、観てみて空と光沢の描写の美しさに惹かれました。ヒロ・ヤマガタの絵画が連想されましたが、ああいうハイコントラスト彩度高めな感じではなく、空の青と夕焼けの赤、白い飛行機雲の軌跡、といった 3D 的に広がりのある映像ですね。

あとはSF 要素を採り入れた遠距離恋愛にとにかく惹かれました。「トップをねらえ!」というロボット美少女系アニメが 1989年の作品で、若干それに通じるものがあったかなと。

その後「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」まで観て、私が期待している新海誠カラーリングと (配合比はちょっとずつ違いますが) SF 要素がほどよく散りばめられているのに満足していましたが、個人的に「星を追う子ども」「言の葉の庭」は作風が変わった気がして、観なくなっていました。

いつもの新海フォーマットは健在、超展開もあります

さて「君の名は。」も、そういう新海誠作品の構成要素を踏襲して作られた作品ではあると思います。

他の映画との共通点だと思ったこと。

  • 青赤の独特のカラーリングと光の描写
  • 遠距離恋愛
  • 鉄道
  • 新宿の描写がリアル
  • 飛騨の描写はジブリ
  • 雨が降っていて叙情的
  • あとヒロインの声優の傾向ってだいたい似てるよね

そうそう、ジブリなんですよね。この作品では主人公の男子高校生、瀧 (たき) くんが新宿周辺、ヒロイン三葉が飛騨の架空の街に住んでいる設定ですが、飛騨の方の緑豊かな自然の描写がジブリ感が色濃く出ています。田舎の神主糸守家の娘として生まれて、神社のしきたりや何もない田舎に嫌気がさして東京に住みたいと思っていると、本当に男女が日によって入れ替わるというお話。

前半は CM にある男女が時々入れ替わってドタバタシーン。大林宣彦の映画「転校生」的な男女入れ替わりモノで、青春の甘酸っぱい思い出路線で最後まで行くのかなと思いきや、途中である衝撃のトンデモ事実が判明して、後半だんだんと SF 要素ベースで、男女それぞれに現実に抗うちょっと重い展開になっていきます。

いま明かされる衝撃の事実度でいえば、「機動警察パトレイバー the Movie」で全国のレイバーが暴走する原因がアレとアレでしたナンダッテー! 感を、SF と怪異現象の中間的なところに味付けしたなと思いました。

「秒速5センチメートル」では、土壇場で山崎マサヨシの主題歌「One more time, One more chance」が流れて、プロモーションビデオ化して一気に畳みかけてきます。今回は RADWIMPS の挿入歌が4曲もあって、CM で有名な「前前前世」はその入れ替わり日常生活シーンに使われますが、後半の重要なシーンでも別の曲とのシンクロ率が非常に高く、盛り上げてくれます。

長いのと多いのは気になる

構成面で気になる点としては、起承転結の「転」のところで曲に載せて相当な気合が入っている反面、転のあと、男女がそれぞれに運命に逆らう葛藤シーンが引っ張りすぎなところですかね。10分は短縮できると思われ、TV版として放送される暁には相当切り詰められるのではと思います。

ついでに都内の描写はとてもリアルなのですが、ドコモタワー ((NTTドコモ代々木ビル)) をはじめとして、ブランドやランドマークの描写が多くて映画内広告的な要素が多く、実際いくつかはスタッフロールの「協力」セクションに出てこない、サブマリン的なスポンサーもいるのかもですが、いかんせん量が多く目が釣られる印象ですね。

フォトグラファーからみたあの映像美

「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」の頃はそれほど写真にハマっていなかったので、なんとなく青と赤がキレイという印象しかありませんでしたが、自分でポートレートの写真レタッチを Lightroom や Photoshop でああでもないこうでもない、とやりはじめるようになると、あの映像美を自分ならどうやって作るのかという観点で観たくなりますね。

  • 空がつねに青くて、ぽっかり雲、夕焼けで飛行機雲 … までは基本形だとして、
  • シャドウ部分にも色かぶり。シアン / アンバー / 緑
  • ハイライト部分を強調している。電車の角とか。葉っぱのきらめきとか。
  • そしてとにかく引きの構図。

ハイライトですよね。写真の世界でも光と影の表現が重視されるという意味では共通していますが、どちらかというと平面 / 曲面より、太陽や隕石の光芒と、エッジ部分のキラキラに命をかけている感じはします。

写真だと光があたる部分は日陰に対して 3EV ほど明るいので、白トビを避けて階調を出そうとすると、ふつう暗い部分の階調が犠牲になってド真っ暗になったりします。ハイエンドな一眼レフカメラを使ってがんばると両方がぎりぎり再現できるのですが、絵的には明るいキラキラも細やかに強調しつつ、暗い部分の青赤緑も「美しく」色カブリしているのが新海誠風なのかなとは思いました。

そして構図。カメラでも、広角レンズで捉えた「引き」の構図が時々使われますが、地上の人物越しに青い / 赤い空を抜いて画面いっぱいに見せたり、糸守村の巨大な地形を俯瞰したりといったシーンが多用されます。ただ映画館の巨大スクリーンにあわせたスケール表現で、自宅のテレビで観ると迫力は下がるんじゃないかなとは思っています。引きの写真を物理的に面積の狭い L判で印刷してもピンと来ないのと同じですね。

スタッフの組み合わせの妙と思われる、これは

映画のパンフというものを超ひさびさに買ってみたのですが、作画監督の安藤雅司がジブリ出身だと知って納得。飛騨の風景には十二分に活かされていますね。

主要キャストが声優メインじゃなく、俳優 / 女優業もやっている方からのチョイスという意味では、ジブリ的な選択ですね。主人公瀧が、いつもの世の中を悟った感じなんだが今回熱い要素もあり。ヒロインの三葉が、あまりアニメ声にならずに透明感と元気の良さを表現できる感じ。

瀧に想いを寄せる大人の女性、奥寺ミキ役が長澤まさみの声で「幸せになれるといいね」というセリフに類まれなる破壊力を感じました。 🙂

また今回主要キャラではありませんが、花澤香菜演じるユキちゃん先生が、実は前作の「言の葉の庭」の登場キャラだと知って、NETFLIX で慌てて「言の葉の庭」を見直したことも付け加えておきます。 🙂

新海誠自身は、作品の叙情的な世界観や美術や PV 的な演出が得意なのであって、初期の「ほしのこえ」を観るとキャラクターデザインは凄いわけではないので、そこをZ会の CM で組んだ経験のある田中将賀氏と組んだり、主題歌命なのでサビの歌詞が強い RADWIMPS だったり、監督自身の指名によるメンバーもあると思いますが、作品自体エンタメとしてのバランスが取れていて、スタッフや声優のチームを編成した人の勝利とも言えると思います。

勅使河原克彦の作業部屋にさりげなく X68000 のツインタワーアマチュア無線機 (機種忘れた) らしきものが置いてあったり、細部のこだわりにも刺さりました。 😉

また違った切り口が見てみたい

新海誠氏の作品、ここしばらく大成建設だったり、Z会だったり、CM 的な起用が多くて、やっぱりビジュアル重視の方向に限定されていくのか、個人的にちょっと危惧していました。

都内側のロケーションを新宿近郊から外して (笑)、転から結びのロングテールな部分を工夫して、そしてジブリとはまた別のテイストのものと組み合わせてみると、とても面白い作品ができるんじゃないかと勝手に妄想してしまう次第です。

作品に長いと言っておいて、本人も長くなってしまいました。
夏休みも終わったのでこれにてドロン