8月27日から MMORPG ファイナルファンタジー XIV: 新生エオルゼア (以下新生 FF14) のサービスが開始されました。2010年に開始した旧版のプレイヤー目線で、当初酷評されていたタイトルをどうやって立て直したのかという話。

Lego Crash Landing
CC BY-NC-ND 2.0 caterpiya

FF に求められるクオリティを大きく裏切った「旧版」

FF14 はもともと 2010年9月にオリジナル版 (以下旧版)がリリースされた MMORPG です。旧版は非常に不評で、特に FFXI を過去に経験して、スクエニらしい独特の世界観、ビジュアル、BGM、ストーリーに骨の髄までひたっていたプレイヤーからすると、ひどい作品でした。

いわくチョコボ乗り場が「チョコボ馬留」だったりと、どこの国のローカライズ作品なのか疑われる品質から始まって、単純に 15人 PT ((サービス開始時。その後 8人 PT になった)) でタコ殴りするだけの戦闘、延々とギルドリーヴを繰り返すだけで、レベル上げ終了後のエンドコンテンツ皆無、マップにはエリア境界がないのは良いが、広大なエオルゼアの大地にロクに建造物もイベントもない、BGM は水田直志氏不在のせいか、FF11 に見られた「FF ノスタルジー」が感じられない、といった具合です。

「疲労度」で成長速度にもモチベにもリミッター

極めつけは「疲労度」(潜在値) と呼ばれるシステムの存在でした。単一クラスの短期集中型の経験値稼ぎ、例えば「戦士」ばかり廃レベル上げしようとしても、途中で疲労値というリミッターがかかり、同じだけ mob を倒しても、経験値が何割か減らされてしまう = 時給が下がる、というシステムです。

長期的な成長効率のみを重視するなら、「速度制限」に引っかからないよう、複数の戦闘職、生産職、採集職を取っ替え引っ替え、何でもできるオールラウンダー型にレベリングしていくことが要求されます。1クラスあたりの成長は遅いですが、自分で武器をある程度作れたりするのでお金 (ギル) を使わないし、すべてのクラスが ALL 50 になるのは特化型キャラクターよりも無駄がなく、速いと。

運営側からすると、複数のクラスを楽しんでほしい。廃人と初心者プレイヤーの成長速度差を小さくしたい。というタテマエですが、その実コンテンツの消費速度を抑え延命を図っているとしか思えない誰得システム。そもそもロールプレイングゲームですから、自分の好きなクラスのレベリングに没頭することの何が悪いのかという意味の会話が、当時のチャットでもよく聞かれました。

パラメータ変更による対処療法から始まる 3つのステップ

2010年12月に開発陣が刷新され、DAoC の廃プレイヤーでもある吉田直樹氏がディレクターに就任してからは、迅速とは言えないものの徐々に旧版仕様のテコ入れが図られます。

  1. まずは経験値の大幅増加によるキャラクター成長スピードの増加、疲労度の廃止。まずは数値的なパラメータの仕様変更により、不満のたまっていた既存プレイヤーの溜飲を下げ、一時的にせよつなぎ止めることには成功したわけです。
  2. 次に PT 人数の減少によるシェイプアップ。15人でダラダラタコ殴り仕様をやめて 8人に減少。FF11 の 6人 PT に近い仕様で、クラスごとの役割の明確な差別化を行い、ロールプレイに没頭しやすくします。
  3. その上で、エンドコンテンツとして 8人 or 4人前提で攻略する「ゼーメル要塞」のようなダンジョン / 攻略ボスの追加。8人メンバーがベストな装備で、ベストな作戦を持ち、制限時間内に必死で手を動かして始めて攻略できるコンテンツを追加。

という流れですね。要は開発コストのかからない改善点から着手して、ゲームバランスの取り直し、そしてグラフィックスを伴うコンテンツ追加と、よりコスト高な改善点に右肩上がり的にロードマップを引いた、ということだと思われます。

この「ゼーメル要塞」、私も当時それなりに廃プレイヤーの攻略組に混じって、鯖で最初に攻略 ((ちなみに、攻略最速はいつも NA の外国人集団だったりしますが…)) したグループ (リンクシェル)、という無形の栄誉を得るべく、コンテンツとしてかなり楽しませてもらいました。

2つの開発ラインを同時に走らせるのって大変ですよね

開発コストがかかるとはいえ、このエンドコンテンツ追加が非常にスローペースなのには疑問を持っていましたが、タネを明かせば、旧版 FF14 の開発の裏番組で、根本的に新しいグラフィックスエンジン、ゲームシステムベースの新生 FF14 を並行開発していたため、開発リソースが二分されて余計遅かった、ということですね。

ゲームコンテンツとしては旧版は残念でしたが、豊富な MMO プレイ経験を背景に、ディレクター兼スポークスマンとして今後のコンテンツの方向性に対してプレイヤーに直接メッセージを発信しつつ、途中まで隠し球として「新生」を開発するあたり、ゲームのプロジェクトマネジメントとしては歴史に残るんじゃないかと思います。

結局、新生の開発に時間がかかりすぎてブランクが空いてしまいましたが。 :mrgreen:

夢と、アメとムチ、そして競争心がプレイヤーをつなぎ止める

まあ何だかんだ文句言いながらも、私はバーチャルの世界でもランキング争いし始めると勝つまで止めない、お受験という第七零災がもたらした残念な性格のため、会社勤めのかたわら、旧版では全クラス max にするまで延々と続けてしまいました。

もう飽きたと言いながら 1年半ぐらい延々とプレイし続けた要素を考えてみると、

  • 長期ロードマップの提示 … 今は無くても、次バージョンでは確実に向上していくという夢と期待感をプレイヤーに持たせる。
  • 大幅な仕様緩和 (アメ) … 経験値倍増によるレベル上げの緩和。
  • シビアになったゲームバランス (ムチ) … 前述の通り、旧版後半になって作られたエンドコンテンツの攻略は、8人 PT で何度も挑戦しないと倒せず、何回もやるうちに覚えゲーとしてうまくなるため、心が折れないように設計されています。かつ、攻略法が発見されると、廃プレイヤーの力技でなくてもあっさり倒せるようにもできていて、コアゲーマーとビギナーの両立が図られています。

さらに、

  • ランキング … スクウェア・エニックスが意図したコンテンツではありませんでしたが、当初からランキングサイトとして廃プレイヤーに知られていた ffxivpro.com の存在は大きかったと思います。廃プレイヤー軍団は、チャットには表向き出しませんが、今よりさらに上位に上がることに多大な労力を払っていました 🙂

仁礼的には十分に楽しんだ後で一眼レフの廃人と化してしまいましたが、これから骨のズイまで浸っている方は、ずいぶんと良くなったらしい新生 Final Fantasy XIV を存分に廃プレイしていただきたいものです。