前記事: ダビング10: 船頭多くして船山に上る Part2

けっこう意外だったというか、ダビング10 に著作権の権利者団体が合意し、いろいろな議論を置き去りにしつつも 7月5日をめどに解禁されることに決まったようです。

ブルーレイ課金から著作権団体のダビング10 容認まで

前回の記事までで、

  • 著作権の日本音楽著作権協会 (JASRAC) など著作権関連28団体で構成する「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」
  • メーカー側である電子情報技術産業協会 (JEITA)
  • 消費者代表である高橋伸子委員、主婦連合会の河村真紀子委員ら

の意見の相違があること、ダビング10私的録音録画補償金が、同じテーブルの上に乗せられ議論されていることを紹介しました。

MD や DVD などのメディアには「録画用」「データ用」の区別があり、「録画用」には私的録音録画補償金があらかじめ上乗せされて販売されています。権利者団体の主張は、時代も変わって、音楽や映像を視聴する方法も変わってきたのだから、それに合わせて携帯音楽プレーヤーHDD レコーダーに補償金をかけるべきだ、というものでした。これらの議論は通称デジコン委員会 ((総務省 情報通信審議会情報通信政策部会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」。ザ・ハングマンなどと思っちゃった人は負けです。:-) )) で検討されていました。

ところが、別の場所で、6月18日になってから、文部科学省と経済産業省の間で、ブルーレイディスク ((Blu-ray ディスク)) に補償金を課金する ((ディスクだけなのか、レコーダーもなのか。朝日新聞によれば両方のようですが。)) 、ということで省庁間の合意があったというニュースが。これに対して、権利者87団体は戸惑いを失望を表明し、JEITA に対してはコピーワンス時代からの疑問点を公開質問状として送り、消費者代表はデジコン委員会で協議を進めるべきだと不快感を表明

中間の落としどころにしようとしたのでしょうが、登場人物が増え、ますます山に上る形になってしまいました。

そんな中で、突然、著作権団体側がダビング10 開始を容認する考えを表明し、7月5日ダビング10 が急転直下決まった形になりました。

最後までダビング10 と補償金は別物だと分かってもらえない権利者団体

そもそも、ITmedia の記事によれば、権利者はもともとコピーワンスが導入されたプロセスには関わっていないことになっています。

 
きっかけはTBSの番組をデジタル録画したものがネットオークションで売られていて、「それはまずいだろう」ということでJEITAがD-paに対してコピーワンスを提案した ((コピーワンスは JEITA によって提案されたというより、実際は電波産業会 (ARIB) つまり放送業界寄りのメンバーで構成されている別の団体で、ITmedia の記事でもその辺について触れています。)) んだとか何とか。で、僕ら権利者からしてみたら、そんな話は一切聞いてないし、実際問題としてコピーワンスが導入されたプロセスには関与していないわけです。それなのにいつの間にか「権利者たちがうるさいからコピーワンス導入された」みたいに悪者扱いされちゃってて、僕らも「そりゃおかしいだろう」と声を上げる必要があったと。

補償金について主張し始めたタイミングの問題で、どうも周囲からはダビング10 に反対してゴネていると受け取られがちで、不幸な立場に立たされているという気はします。

私見 – ダビング10 じゃなかったのでは

また新たな前回も書いたように、1コンテンツごとに「数」を管理するダビング10 が良いスペックとは思えません。

ARIB のコピーワンス仕様が作り出した人工的なムーブ失敗、編集の制限だったはずなのに、数を増やして妥協しようというダビング10 で合意してハッピーなのでしょうか。EPN、ダビング10 と議論が進んできて、今さら動き出してしまったものは後には戻れない、ということなのでしょうか。

一般的な利用者にとっては、見て HDD がいっぱいになったら消すため、10 だろうがコピーワンスだろうが、今のレコーダーが壊れたら買い直すだけの話で、大差は無いかもしれません。

影響を受けるのは、CM カットを卒業して、コピーを繰り返して切ったり貼ったりマイライブラリーの編集に目覚め始めた人で、ある日突然「コピーはもうできません。ムーブしますか?」と言われて、機械の故障でしょうかと人力はてなに質問が載り、無限ループするかもしれません 😕

私見 – 補償金でアーティストやクリエイターは満足なのか

音楽や映像のクリエイターに対する適切な対価を還元するための仕組みは必要です。ただ、それが本当にデバイスやメディア一律に課金する補償金でなくてはいけないのか、はもう少し議論した方が良いと思います。

利用者にとっては、いちいち課金を気にしなくて良い、いつの間にかガソリン税のようにお金を取られていたというサブリミナルさでは、補償金制度にも長所はあるでしょう。ただ携帯着うたダウンロードの伸びや、iPod, iPhone 3G の普及に伴い、曲ごと課金を当たり前と考える世代が増えていくはずで、補償金モデルそのもの大きなターニングポイントを迎えていると思います。

また、「権利者の代表」は日本音楽著作権協会 (JASRAC) など 87団体から構成されている、となっています。著作権を放送局からまとめて徴収する立場の意見だけではなく、実際にパフォームして対価を得る立場のアーティストやクリエイター本人はどうなのか。包括的に補償金をどこかから取ってきて、そこから分配を得るのと、自分が実演した作品が視聴された分だけ著作権管理システムを経由して対価を得るのと、どちらを望むのでしょうかが知りたいですね。